Day of beginning change

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「小説」
Innocence world

6話 ~Nobody hears confession~


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父さんが倒れた。
どんな状況だとか、今の容態とか、そういったことは何一つ分からなかった。
あの養母ひとからの電話。
俺は気が動転して、病院の場所を聞いてすぐ、携帯を切ってしまったからだ。
ただならぬ俺の様子に、楓先輩が心配そうに声をかけてくれた。それのおかげか、ほんの少しだけ気が落ち着いた。
俺はかえで先輩に手短に別れの挨拶をし、その場から全速力で駆け出した。

走っている間、今まで感じたことのない妙な感覚に襲われた。
不思議と疲れや息切れはなかった。
それの代わりに、ひどく口が渇き、喉の奥から異様な吐き気が上ってきていた。
頭の中は何も無く、ただただ嫌だという感情が渦巻いていた。
思考が働かなかった。


病院に着いた。
一体、どれだけの距離をどれだけの時間をかけて走ってきたのだろうか?
脳だけが麻酔にかかったようにぼやけ、時間間隔を狂わせていた。
足早に受付へと向かい、父さんの名前を出す。この時、俺がまともな状態だったかどうかは、後になっても思い出せないだろう。一つだけ言えるのは、受付の女性が少し怯えたような表情を取っていたことだけだ。

扉に手をかける。
その瞬間、聞いたことのないような優しい声が聞こえてきた。いや、少し語弊がある。あの養母ひとの声で、聞いたこともないようなやさしい声音だった。大丈夫や、気分はなど、恐らく父さんに対しての労わりの言葉だろう。
思い切って扉を開ける。
四つの目がこちらを捕らえた。ある双眸はやさしさを。ある双眸は軽蔑を。
俺が部屋へと足を踏み入れた瞬間、彼女が父さんに何か一声かけたと思うと、入れ替わるように病室を出て行った。予想はつく、あの養母養母ひとが気を利かせてとかではない、ただ一緒に居たくないのだろう。
俺はそれにも構わず、ベッドの横にある丸イスに腰を掛けた。

「よかった…大丈夫そうで…」

「すまないな、聯。ちょっとした過労からくる貧血だそうだ。心配をかけてしまったようだ」

「そんなことは気にしないでくれ。ホントになにもないんだよな?」

「あぁ、今日はここに入院して、明日には家に戻れるよ」

父さんの顔を久々にまともに見たような気がする。
頬が少しこけ、目には覇気がなく弱弱しく佇んでいた。一時間前に、父さんの顔を思い浮かべてみろと言われたら、俺は別人の顔を思い浮かべていたかもしれない。それほどに、父さんの印象が違っていた。

暫しの沈黙が訪れた。
聞こえてくるのは、一定の間隔で響く点滴が落ちる音。
それと、遠くに聞こえる看護師の慌ただしい足音。
最初に口を開いたのは父さんだった。

「聯、もう帰りなさい。明日は学校だろう? 私は大丈夫だから」

父さんの声はひどく掠れて、かろうじて聞き取れるほどだった。

「…分かった。なにかあったら―――」

そこで言葉を止めた。
別に俺が何かしなくても、父さんにはあの養母ひとが居るのだ。俺はただのお節介になるだけ。

「いや、そうだね。今日はもう帰るよ。それじゃ、おやすみ」

「あぁ、おやすみ」


俺はふらふらと病院を出た。
途端に激しい吐き気に襲われ、近くの路傍に吐いた。
立ち上がろうにも足が言うことを聞かなかった。頭が、がんがんした。
今になってやっと、走った後遺症が現れたみたいだ。
けれども、頭の中にあった妙な感情は消え、代わりに虚無感と無力感が満たしていた。

もともと、父さんは体が弱い。
ここ最近、仕事も忙しそうで無理をしていたようだし……いや、
これは単なる言い訳だ。
きっと、父さんは俺とあの養母ひとのことで疲れていたのに違いない。
悩んでいたに違いない。
苦しんでいたに違いない。
なのに、俺は変な意地を張って、だけどそれが正しいと思い込んで…。


バカだなぁ…俺。


……………

………

そっと、ぷつんと何かの切れる音がした。
それは、テレビの電源が落ちたかのような、そんな音。





いくらかの時間が過ぎているようだった。

気持ちが宙に浮いて、少し気持ち悪い気分だ。
簡単に言えば、寝起きのあの倦怠感に近い。

…ん?

なんだか、暖かくて、優しい…。
いつの間にか、俺の体勢は変わっていた。
先ほどまでは座り込んでいたはずなのに、仰向けになっている自分が想像できた。
重い瞼を開けると、そこには…
ブロンドの長い髪を揺らめかせ、優しげな双眸を傾ける、彼女の姿が…

「母さんっ!?」

しかし
そこには、慈しみに溢れたあの顔ではなく、心配と驚きに包まれた面持ちの先輩の姿があった。

「聯君、大丈夫?」

「先輩…なんで……」

「さっき、聯君が病院の名前を口にしていたから、少し気になって来てみたの。そしたら、聯君が倒れてて、すごくびっくりしたわ。病院の前だったのだけど、魘されてるみたいだったから、横になれるようにって思って…」

その言葉と、今現在置かれている、膝枕という状況には繋がらない気がした。けれども、それをいちいち聞くほどでもないと、内心で納得した。
それよりは、一瞬、垣間見た、
重なった。
あの姿のことのほうが気になっていた。

ゆっくりと上体を起こそうとする。
しかし、
その動作は、そっと肩に添えられた手からの圧力で中断された。

「まだ、ダメよ。顔色が悪いわ」

「いえ、大丈夫です。いつまでもこうしてはいられないですし、先輩にも迷惑ですから…」

「なま――」

先輩が言葉を止めた。

「えっ、なんです?」

「ううん、なんでもないわ。それより、差し支えなければ、なにがあったか聞いてもいい?」

「えぇ、構いませんよ。父が過労で倒れたんです」

「お父様が!?それで、容態のほうは…」

「大したことはないそうです。明日には家に戻れるみたいですし。父とも話しました」

「そう、よかった…」

先輩は本当に安堵したようだった。
他人の、それも最近知り合ったばかりの人間の家族を心配するなんて…。
自分には考えられない。

不思議だ。
この人はどこまでも、俺の考えを裏切る。
自分があまりにも惨めに見えた。

「それじゃ、そろそろ帰ります」

ふらつく足に鞭を打ち、座っていたベンチから立ち上がる。
そして、歩き出そうとした時、俺の右手が宙で止まった。
先輩が握っていた。

「解らないけど、聯君、まだ何かあったんじゃ……」

一瞬、あの養母ひとが頭をよぎった。
それの所為で、体が硬直した。

「いえ、なにも…」

自分でも解る。
あまりにも見え透いた嘘だ。

「なにか私に力になれることがあるなら…」


正直、この時、俺は不安定だった。
これは言い訳だ。
俺はバカだ。
ここまで愚かになれるのかと、自分でも不思議なほどに。

俺はこの時
先輩を―――鬱陶しく思った。

「ほっといてください!」

それが俺の口から紡がれた、最低にして言ってはいけない言葉だった。
何かが決壊するかのように、言葉が感情のままに波濤した。

「先輩には関係のないことです。これは俺の問題です。だから、お願いですから……」

ハッとした。
何もかもが遅かった。
己の無力さを、鬱憤を、
ここまで来て、俺を介抱し、あまつさえ父を心配をしてくれた先輩にぶつけていた。
優しい先輩の、その優しさを否定した。

「……ごめんなさい。少し図々しかったわ」

冷たい笑顔だった。
そう言って、先輩は俺から離れていった。
去り際に、「お父様、お大事に」とそう言い残して。

遠ざかる先輩の、楓先輩の後姿はやはり冷たかった。
くるりと振り返り、俺の名前を無邪気な顔で呼んではくれなかった。
右手に残る先輩の温もりが、今になって熱いぐらいに俺の身を焦がした。

俺は、

同じことを繰り返していた。

何もかもを拒絶して、
そうしたら誰も悲しまないと思っていたのに。



誰も幸せにはならなかった。





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~ Comment ~


こんばんは、遠野です。
「魘(うな)される」なんて普通は読めませんよwww

まぁ、それはさておき。
先輩と距離が……。寂しそうに去っていく背中が
せつない気分になります。
#60[2010/06/19 17:22]  遠野秀一  URL 

Re: タイトルなし

> 「魘(うな)される」なんて普通は読めませんよwww
いやはや申し訳ないです
それでも、読んでいただけて幸いです

> まぁ、それはさておき。
> 先輩と距離が……。寂しそうに去っていく背中が
> せつない気分になります。
きっと、誰も悪くはないんだと思います
#64[2010/06/19 23:40]  リュ~ク  URL 














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