Day of beginning change

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短編・その他

翼の意味

えーっと、急に書いてみた短編です。

いろいろと、自分なりに意味を持たせた作品となっています。
テーマはズバリ『10代』です。

世の中で、
背負うものの重さを知らずに大人になる人
背負ったものの重さに潰されてしまう人
自分もいずれ何かを背負うときが来て、果たしてそれを背負い続けられるか

そう思ったとき
ある意味で戒めとして
ある意味で皮肉として

この作品を、書き上げました。

内容はブラックで、且つ解り辛いかもしれませんが
それが、自分なりの味だと思っておりますので、ご了承を。



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まぁ、まずは先に言っておこう。僕の人生は平凡にして非凡であると。
なんだい、矛盾しているだって?
そんな堅いことを言うなよ、そもそも矛盾そのものが成り立っているからこそ矛盾なのだろう?
昔々ある所の武器商が、なんでも貫ける矛を売りだした。けれども、違う商人がなんにも通さない盾を売っていた。では、それぞれが対峙したとして、結果はどうなるのだろうか。それが矛盾という言葉の主な生い立ちなわけなのだけど、じゃあ実際に結果を確かめたのだろうか。どっちも正しいのなら、それこそ何も起きずに終わる。きっとそれは意味のないことなのだろうね。
 そう、僕の人生も意味のないと言えるし、意味のあるとも言える。うーん、これもまた矛盾のように聞こえてしまうね。どう言ったものか…僕の語彙力はそれほどあるわけではないから、困ったものだ。
 そうだなぁ、掻い摘んで言うと、僕とは普通の高校生にして普通の男子にして普通の人間。
 それでいて、普通におかしな存在。



 さて、僕という人間を一言であらわすのには、さすがに無理がある。なので、僕については追々という形で知ってもらうとしよう。
 僕は、俗に言う、普通の男子高校生だ。親は、父は普通のサラリーマン。母は専業主婦。兄弟は居ないが、弟が欲しいと思っていた時期もあった。友達が兄弟でゲームしているのが羨ましかったからだ。今となっては、どうでもいいことだ。
 通っている高校は、共学で普通の公立高校。有名な進学校というわけでも、有名人を輩出したわけでも、地元でも札付きの不良校というわけでもない。正に中庸。
そこに通っている僕は、中級には居ると自負している。学校というコミュニティ、それも高校ともなると難しい人間関係が存在する。恐らく大部分の人たちが暗黙のルールとして認知している、階級のようなものがある。
 男女問わず誰とでも気兼ねなく話し、仲良くできれば、大体は上流階級だ。主に、不良はこの立ち位置にいることが多い。とはいえ、不良の定義というか、不良が上流というのには、いささか疑問を呈したくもなる。あれらは、ただ大多数の思春期の人間が在するコミュニティの恐さを知らないだけだ。彼らに面と向かって歯向かおうとするのは誰も居ないからだ。わざわざ面倒ごとを被りたがるような酔狂なやつは普通いない。それ以外の学生は、自分に被害が出ないよう当たり障り無く過ごす。これが中流階級の奴らの基本だ。中流は割りと幅が広く、恐らく過ごしやすさでは群を抜いていると僕は思っている。とは言え、三つしか区分が無いのだから大仰なことは言えまい。
さて、となると、三つ目の最下層の奴らは、どうにもならない。こればっかりは性格も然ることながら、これまでの経歴や属してきたコミュニティが大きく作用してくる。彼らは基本、仲間内でしかコミュニティが作れず、独自の世界を展開する傾向にある。こう言っては偏見のように聞こえるから先に言っておこう、このように思っているのはあくまでも僕の主観であると。話を戻そう。彼らが、上の階級の奴らに貢献できるのは、その話題性ぐらいだろうか。つまらない授業の間に見れる聞ける、その話題性。詰まるところ、テレビで見る芸人や、つまらなくも見てしまうバラエティ番組。その類に近い。変わり映えせず、また狭い生活空間の中で、日々退屈と戦うのが学生である。退屈を紛らわすのに彼らは役立っている。しかし、少しでも逸脱しすぎると、奇異の眼差しが酷く淀んだものに変わってしまう。間接的から直接的。よく言われるいじめだろう。まぁ、これを回避するために行動や言論を自重するなどすると、上の人間にはそれが逆に面白く映り、退屈を紛らわせる。皮肉にも、そんなサイクルで成り立っている。
ここまで長く語ってしまったのには、ある事件がきっかけで僕がどの階級にも属せなくなってしまったことが一番の要因だろう。僕は、普通に過ごしていた。それだけだったのに、変わった。どうしてそうなったかは知らない。僕が聞きたいぐらいだ。生まれてこのかた、これといった大病に罹らずに過ごしてきたが、まさか、原因不明の何かに罹るとは思わなかった。
僕はある時、背中に羽が生えたのだ。



あれは高校2年の春先だった。それはもう突然、授業中にぶっ倒れた。背中が焼けるように熱くなり、ついには身を焦がすような痛みに苛まれた。転げまわるという行動は避けたがったが、どうにも我慢はできなかった。涙がこぼれることも、声をあげることもしたくはなかった。後に一場の笑い種となってしまうのが嫌だったからだ。僕は痛みの中で、そんなことを考えていた。生粋のチキンらしい。我ながら気づくまでに16年もかかってしまった。けれど、そんな考えもすぐに痛みがもみ消していった。そして、僕は目の前が赤から黒へと変わっていくのに気づいた。ただ、気づいた頃には、意識がほとんどなくなっていたけれど。
次に目が覚めたのは家の、自分のベッドの上だった。天井の角にあるシミが、そうだと分からせてくれた。焼けるような痛みはなかったが、体を動かすたびに、チクリと背中が痛んだ。暫くし、母親が部屋に入ってきた。大丈夫、などと声をかけてくれたが、僕は生返事しかできなかった。頭の中では、倒れたときの状況がリプレイされていたからだ。あのような醜態を晒して、どんな顔をして学校に行けばいいのだろうか。ましてや、あの彼女がいるクラスに…。
考えがまとまる前に、母がそっと額に手を乗せた。ひんやりとして気持ちよかった。でも、温かくて、それも心地よかった。こんな風に母に看病されることも久しぶりだった。小学生以来、動けなくなるまでに風邪をひいたり、何かしらの病気には罹っていなかったからだ。母は、僕が倒れてからのことを話してくれた。
あれから、すぐに救急車が呼ばれ、病院に運ばれたらしい。この点も、今後の僕の学校生活において重々、考えておかなければいけないようだ。相当の大事になっていたらしい。そして、もちろん病院で検査。しかし、僕の体に異常は無かったとのこと。ただ、痛みを訴えた背中に少しだけ気になった部分があったらしい。肩甲骨付近の骨が変形しているかもしれないと。ただ、それは極微細なもので気にするほどのことではなく、僕は早々に家に運ばれた。僕は覚えていないが、一度病院で目を覚ましていたらしい。というのが、今日の経緯というわけだ。今日は運よく、金曜日だ。二日間の休日をはさめば、僕の体調もよくなるだろうし、学校でのほとぼりも冷めるだろう。僕は、そうやって自分を安心させ再度眠りについた。


大きく変化したのは日曜日のことだった。変化とは二つの意味がある。僕の背中に妙な突起が出てきたこと。肩甲骨の骨が変形しているようにも感じれたが、病院での気にするほどではないという診断の手前、何か重大な病気かもしれないという意識が頭をよぎったが、本当になってしまうのを恐れ、何もないと上から意識の上書きをした。ちなみに、もう一つの変化は、僕が想いを寄せている女子と一つ距離が縮まったことだ。恥ずかしながら、片思いというのを僕はしていたわけだけど、いかんせん我ながら奥手なために、いまいち進展が見込めなかった。そこで、仲のよい友人の計らいで遊ぶ機会を得ることができたわけだ。それもあって、一つ目の変化はあまり頭の中には残っていなかった。それどころではなかったからだ。
 彼女は、普通の女の子。クラスでは友達同士で仲良さげに話している姿をよく見る。確か部活は、吹奏楽部だったような気がする。想いを寄せるきっかけは些細なもの。春先に、新しいクラスでは一年からの友人が一人も居なかった為、静かに自分の席で座っていることが多かった。そんな時、後ろの席から背中をつつかれた。それが彼女だった。それから少しの期間話したりと交流していたが、互いに友人が増えていくとそういう機会も失われていった。僕自身、最初はどうとも思っていなかったが、ある時、彼女に彼氏が出来たという情報が耳に入った。たぶん、僕が思うにそれが彼女に対しての想いに気づいた瞬間だった。随分と間の悪いときに気づいたものだ。そこから僕にはどうしようもないわけだ。それで、一ヶ月ほど経って、別れたという噂を聞いた。僕は変な気分になったのを覚えている。彼女がどう思っているかは分からないが、僕は自然と嬉しさが滲み出てきたからだ。
 
そして、この日曜日に至るわけである。
 内容はさして特別なことをするわけじゃない。ただ、数名の友人を含めてのボーリングだ。この競技に関しては割と得意だったので、そうしてもらった。所謂、かっこいいところを見せたかったのだが、僕はてんで運が悪いらしい。始まってから30分足らずで背中に地味な痛みが走り始めた。もちろん、最初は気にせずボーリングを続けていた。けれど、その痛みは徐々に強まり、ついには得意なボーリングにまで響いてきた。さすがに5連続ガーターに、額に滲む脂汗で今回の企画を取り計らってくれた友人が心配し始める。それ以外の奴らは、僕が得意だということを知らないので、あまり気にせず軽く笑い流している。トイレに行き、友人と話をするが、その間も痛みが強くなっていく。倒れた時に感じた、焼けるような痛みも出始めてきた。僕自身の体だ、これ以上は無理だと解る。また倒れては元も子もない。彼女に同じような醜態を晒すわけにはいかなかった。友人に後は任せ、後ろ髪引かれる中僕は家へと急いだ。なんとか家に着き、激しい痛みを抑え、2階にある自分の部屋へと戻る。そこで、ぷっつりと意識が途絶えた。

 次に目を覚ましたのは、夜中だった。どうやら家族には寝たと思われていたらしく、ずっと放置されていたらしい。これが、心臓発作とかだったらどうしていたのか、そんな不満が心をよぎったが、それ以上の問題が起きていた。背中に違和感を感じた。窓に映る自分の姿を確認して、僕は腰が抜けた。それと同時に、ひとひらの純白の羽がゆらゆらと空中に投げ出された。
 目を疑った。夢かと思った。いや、思いたかった。お気に入りのシャツを突き破り、あたかも天使の如き白き翼が僕の背中にはあった。開いた口が塞がらなかったのは、初めて見たSF映画以来、人生で二度目だが、どうやら規模は全くもって違うようだ。微かに翼がはためく。少し肩甲骨付近に力を入れてみる。すると、白い翼がぶわっとはためいた。幾ばくかの羽が宙を舞う。
僕は心臓の鼓動が早まっていくのを感じた。僕の体に何が起こっているのか、現象はわかるが、原因がわからない。何よりも、恐かった。これをどうすればいいのかわからなかった。頭が働き始めると、今度はパニックになった。気持ちを落ち着かそうと、深く呼吸してみるが、うまくできない。軽い過呼吸のような状態になる。僕は、机に手を伸ばし、立ち上がろうとするが、足に力が入らない。机から手が離れ、腰が落ちる。それと同時に、机の上に積み重ねてあった参考書や教科書が落ちる。大きな物音に、どうやら1階に居る両親にも聞こえたらしい。僕の名前を呼ぶが、それに答えられない。ちょっとずつ呼吸は落ち着いてきたとはいえ、僕はさっきとは違う恐怖心に駆られていた。この姿を見た両親はどう思うだろうか、と。
母親が部屋の前から声をかけてくる。僕はどうしようかと迷ったが、同じ家に住んでいる以上、隠し通せるものではないと結論付け、母を部屋に招きいれた。もちろん、母は絶句していた。そして母は気を失い、僕は父を呼んだ。父もまた、僕の姿に絶句し、その場から動けずにいた。僕は、変わってしまった。
それからだ、僕の平凡な人生が音を立てて軋み始めたのは。


 さて、翼が生えた僕に待っていたのは、正に熾烈なものばかりであった。
 まず始めに、医療関係の問題だ。それは翼の生えた人間がいたら、どこもかしこも調べたくなる。さすがに現代だ、バラされたりはしないが、検査に次ぐ毎日が待っているだろう。僕は必要最小限の協力しかしなかった。僕自身、それによって翼の原因が突き止められ、言い方が合っているか定かじゃないが治すこともできるだろう。けれど、そこまでの勇気は持ち合わせてはいない。
 次に、世間の目だ。噂なんてのはすぐに広まる、このご時世。医療関係が動き出した時点で、僕の周りから静寂は奪われた。常にカメラや記者がうろついていた。それもあって、僕が外に出ることなんてほぼなかった。それ以上に、僕は両親に申し訳が立たなかった。父は仕事に、母は買い物などで外へと出なくてはならない。もちろん、マスコミの格好の的だろう。二人は疲れた顔でいつも家に帰ってきていた。その度に、なぜか僕に謝るのだ。僕が謝らなくちゃいけないのに。奇異の目だけじゃなく、誹謗中傷も後を絶たなかった。見なければいいのだけど、見てしまう。ネット上では、母親が鳥とヤッただの、父親は烏天狗だの、あらぬ事が書き連ねられていた。それを両親が知っているかは知らないが、それでも僕の胸にはいくつもの冷たい刃が突き刺さっていた。
 最後に、僕の居場所である学校。友人たちは、メールや電話をくれた。けれど、それに応えれるほど僕は精神が安定していなかった。結果、無視する形になっていた。それでも、友人たちは連絡をくれた。僕は、毎日泣いた。背中に揺れる翼は、無情なほどに輝き、美しかった。
 何度か、翼を切ってしまおうと思った。けれど、翼は僕自身の肉体で、それでいて繊細だった。届かない背中の羽だ。羽の根元に包丁の刃を当てるけど、恐怖心から手が震えた。そして、手から包丁が滑り落ちるのが毎度のことだった。自分の体には思えないけど、確実に背中の白い翼は僕自身のもの。自分の肉体を切るなんて、僕にはできたものじゃなかった。どう足掻いて、心は弱く、脆かった。
 
 けれども、
人の噂も七十五日。そんな言葉を信じているわけじゃないけど、僕は3ヵ月後、学校に戻っていた。翼を押し込めるには無理があったため、専用の制服を作り、それを着ていた。大きな翼で後ろにいた人が見えなくなるため、最後尾に席に移った。幸か不幸か、想いを寄せていた彼女が隣の席になった。そう、僕が学校に戻るきっかけをくれたのは、彼女だった。
僕が、周囲の人たちから身を―――その翼を隠すように、引きこもっていたときだった。依然として、一日に数件、友人たちからのメールや着信が入っていた。我ながら良き友人に恵まれたと思う。そんな思いも、今は背中にある翼の重みのせいで、心の下へと沈んでいた。ずっと、部屋に座り込み、ただ何もせずにしていた。ふと、思い出したようにメールのチェックをする。それが僕の日課となっていた。それだけが、僕がこの世にまだ生きていることを自覚させてくれていた。
受信されたメールの中に、普段は見慣れぬ名前があった。例の彼女だった。要約すると、このようなことが綴られていた。学校に来て欲しいな。僕は大いに揺れた。人でないかもしれない僕が受け入れられるわけがない。ましてや、こんな不気味なほどに美しい翼があるのだから。なによりも、彼女に嫌われたくない。今のままを続ければ、彼女にこの姿を晒さずに済む…けれど…。メールの最後、彼女の一言が僕を突き動かした。

 実は好きでした。あなたがいない学校なんかつまらないの。だから、来て欲しい、と。

僕はそうして、学校に復帰した。今はまだ、父か母の送り迎えで、あまり外に姿は晒さないようにしている。それでも、学校という空間は狭いながらに大きい。休み時間の度に、見物のために、生徒が集まる。もちろん、僕が教室にいるわけがない。短い休憩時間ならともかく、昼休みにはとても耐えられたものじゃない。僕は屋上にいた。屋上は立ち入り禁止で、そもそも使用頻度の少ない二棟の校舎にしかない。それだけに向かう最中も、屋上そのものにも人はほとんどいない。僕と彼女を除いて。
僕の姿を見た、彼女は一言、綺麗と言った。複雑な笑みを返したことは覚えているが、なんと返事したかまでは忘れてしまった。彼女は僕の姿を受け入れてはくれたらしい。頻りに、翼について尋ねてきた。とはいえ、僕自身もよく分からないため、曖昧な返事しか返せなかった。
いつしか、翼について彼女も触れることはなくなった。それと同時期に、学校での注目も冷めつつあった。さすがに世間からの目は留まること知らなかったが、僕の居場所である学校で、ある程度治まれば、僕としては当然楽になる。何故、学校での注目が減ったかについては決定的なことがあった。なにせ、翼だなんだと言いながらも、まったく本来の意味を成していなかったからだ。そう、飛ぶことだ。人間が生まれてから、ぶつかってきたと云われる問題。鳥になることが、一つの夢物語とまでなっているほどだ。かのライト兄弟だって、数メートル飛ばしただけでも大喜びしたらしい。まったく飛べない翼を持つ僕を見たら、彼らにとっては皮肉にしかならないだろうな。そもそも、物理学上、人間はたとえ翼を持っていても飛ぶことはできない。重いのだ。もしも、鳥のようにいろいろと身体的機能を捨てれば、あるいは飛べるかもしれないが、僕に文字通りの肉体改造までして飛びたいとも思わない。そりゃあ、僕自身幼い頃に鳥になりたいと思ったこともあったような気がしないでもないけれど、実際にこのような立場になると、たまったものじゃない。   
ということで、ただのお飾りでしかないこの翼に飽きるのは、我が世代の人間にしたら当たり前とも言えるのだろう。それでも奇異の熱視線は止むことはないのだけど。

いつものように、屋上で文字通りの彼女と昼食をしている。彼女が先に食べ終わり、僕に視線を向けてくる。どうした、と僕が聞くと、彼女はなんでもない、と答えた。それでも、やっぱり言い足りなかったのか、彼女は閉じた口を開いた。
私ね、その翼は嫌いじゃないの。そりゃあ、授業中や生活の中で邪魔にもなるし、目立っちゃうし、でもね、その真っ白で綺麗なとこは好きなの。なんだか、見ててうっとりしちゃう。あれだね、ヴァンパイアの目を見ると、虜になっちゃうみたいな。
彼女の言葉に俺は皮肉交じりに、こう返した。
となると君は僕の翼に恋をしたというわけか、と。
そうかもね。
彼女のストレートな返しに、僕のほうが少しダメージを受けたようだった。 
 僕は、この翼と生きていくことを決心したわけじゃない。そこまで割り切れるほど、簡単な問題じゃないと思っていたからだ。それでも、彼女が好きだと言ってくれたこの翼を自ら断ち切ろうとする思いが消えていたのは確かだった。


 僕には勿体無いぐらいの彼女だった。
急になんだって? 
いいじゃないか、事実を言っているだけなのだから。別に自慢で言っているわけでもない。ただ、事実を何の嘘方便も無く語っているだけ。聞きたくなければ、軽く流してもらっても構わない。

こんな姿の僕を好きになってくれただけじゃない。あまり外出できない僕は、彼女と何処かに出かけることができない。裏を返せば、彼女を何処にも連れていってあげれない。それなのに、いや、それどころか、彼女は片道1時間以上もかかる僕の家によく来てくれた。玄関から向かい入れる度に、申し訳ない気持ちになってしまい、表情もどことなく暗いものになってしまっていた。そんな時は必ずといっていいほど、彼女はこう言ってきた。
 ただいま、と。
 自分の家よりも、自分の家みたいに感じるの。だから、ただいま。
 そうしたら僕は、おかえりと言うしかないじゃないか。
 少し照れてそう言うと、母が必ず顔を出す。年頃の男子は彼女の存在をこの世で母親に最も知られたくないのだけども、我が家ではそのことは全く無視されていた。母もまた、彼女が来ると笑顔になるのだ。僕は、それはそれで嬉しくもあり、気恥ずかしい気分にもなり、なんとも素直に喜べない状況となっていた。
 彼女は家に来ると、ご飯を一緒に食べたり、それなりに家族のようにも感じていた。横で母と話しながら笑う彼女を盗み見ると、下らない妄想が頭の中をよぎるわけだ。
 いつかはこんな風に、一生に暮らして、それで………なんて。
 でも、僕はそれと同時に背中の重みで幻想から目が覚める。こいつが、この翼がある限り僕の望む平凡な暮らしも、平凡な未来もやってこない。一生かどうかはわからないけど、それでもまっすぐに平坦な道を歩くことはほとんどないと言っていいだろう。それでも、彼女が居ると、こんな翼でも飛べそうな気になる。実際に飛べるわけじゃないけど、でこぼこで山や谷ばっかでも、彼女となら飛んで、そんなこと気にならなくなりそうな、そんな風に思えた。そう思えるほどに、そう信じれるほどに彼女の存在は僕の中で大きかった。

 夕食を済ませてからは僕の部屋で他愛もないことを話す。本当にくだらないこと。学校の友人が話そうものなら、あくびが出るだろう話題でも、彼女と話していると弾む。恋人同士がすることとなると触れ合ったりってのもあるかもしれないけど、僕はどうもそういうことよりも、ただ近くに、ただそばに、ただ通じ合っているだけで幸せを感じれた。10代の色恋沙汰など、心理学者様に言わせれば程度の低い幼稚なものだろうけど、僕はこれ以上になく、楽しくて嬉しくて幸せだった。互いに汚い部分を知らないだけで、知ってしまえばそれまで、なんてこともよく言われるが、だからどうした。僕は、彼女が好きで、彼女もまた僕のことを好きと言ってくれる。その事実だけでいいじゃないか。それだけで十分だ。

 夜も深まる前に、僕は彼女を家へと送る。できれば彼女の家まで送ってあげたいのだけど、彼女が駅までいいと言い張るため、毎回駅までの見送りとなっている。
 夜道ではほとんど会話はない。ただ、手をつないで歩く。夜ともなれば、翼もそれほど目立たなくなる。僕はそんなことよりも、手をつなぐという行為を見られていないかとどぎまぎした。
ある時、彼女はこんなことを言ってきていた。
 私って、目がそんなによくなくて、いつもコンタクト。コンタクトがないとはっきりと見えなくて、人の区別とかがほとんど出来なくなる。でもね、その翼は見間違えない。他の誰でもない、あなただって分かる。
 彼女が嬉しそうな声をあげる。僕は不思議に思い言葉を返した。
 なにが嬉しいの?
 あなただけが特別。それって、なんだかかっこよくない?
 中二だね。
 僕の言葉に彼女は、ぱっと手を離し、前へと走る。僕は咄嗟に手を伸ばしたが、彼女の手を掴むことはできなかった。しかし、彼女は数メートルほど前で立ち止まると振り返り、
 いー、だ。意地悪。
 僕は、笑った。
 そんな僕を見た彼女はますますご立腹らしく、頬を膨らませて、こっちに走ってきて、僕の胸の辺りをぽかぽかと殴ってきた。僕はそれでも笑いが止まらなかった。目じりには、光る何かがあり、それはそっと頬を伝い、地面へと落ちていった。舗装されたアスファルトには、宵闇よりも暗い黒点が穿たれた。


 僕はなんとか、家族、そして彼女の支えで、この翼と折り合いをつけ生きていけそうに思えた。もちろん、この先にどんな苦難が待っているかは分からないし、今以上に辛いことが起きないとは言い切れない。それでも、大丈夫なんじゃないかと考えていた。けれど、世界はそんなに優しくなかった。
 シンプルなことだ。世界でただ一人のマイノリティは、人としては扱われない。

 それは突然だった。
 母が怪我をした。なるべく遅い時間での外出を避けていたのだが、ほとぼりも冷めてきただろうと思った母は、少し遅い時間に買い物に出かけた。そこで、何者かに石のようなものを投げられ、頭を数針縫った。今までは実害はなかった。そりゃあ、精神的なもののほうが人間は弱い。見えないものにこそ、真の恐怖を覚える。けれど、僕にとっては少し違う。どこか高をくくっていた、家族を含め、僕らは大丈夫だと。なのに、母が怪我をした、その報告を聞いて、僕はどうしようもなく恐くなった。なにより、自分が。これからも、こういったことが起こらないとは限らない。僕の存在が、家族を肉体的にも精神的にも傷つけてしまう。そして、家族だけでなく、僕の身近な存在をも…。
母は、大丈夫だよと言った。その顔を僕は見ることができなかった。

 僕はベッドの淵に背中を預け、真っ暗な部屋に居た。僕の顔は煌々と電光に照らされていた。彼女と話していた。塞ぎこむ僕のことを知ってか知らずか…いや、知らないのは当然か。それでも、着信と同時に携帯の液晶に映し出された彼女の名前は、萎縮した僕の心をほぐした。
 内容は些細なこと、今度いつ遊びに来るかということだけど、さすがというか彼女らしい。僕の微妙な語気の変化に気づいたのだろう。どうしたの、そんな言葉を投げかけてきた。もちろん、僕は母のことも弱音も吐いていない。ただ、彼女には解ってしまうのだろう。だからこそ、僕は何にもないよと返す。これ以上、誰も傷つけたくはないから。
 一時間ばかし彼女と話し、電話を切った。そして、表面化しつつある、ある思いが見えてきた。

母は一日、病院で過ごすらしい。父はそれの看病。今は、僕しか家にいない。部屋で居る僕の耳には、時計の音だけが聞こえていた。けれど、僕の部屋には時計の類はないので、今聞こえているのは居間にある大きな掛け時計のものだろう。そうか…静かだとここまで音が聞こえてくるのか。確かに、そんなに新しくない家だ。ここは、僕の家だ。忘れはしない、僕の家。生まれてからずっと居る、たった一つの家。
 だからこそ、この家を出よう。誰も居ない場所へ。誰にも迷惑をかけない場所へ。あるかどうかなんて分からないけど、僕が居てもいい場所へ。
 僕は逃げることにした。錯乱して飛び出るなんて、そんなバカじゃない。僕はどうしようもなく臆病なだけだ。あてどないことに変わりはないけど、自分の中では意味が違うように感じた。最後に、もう一度彼女にだけは伝えようと思った。けど、伝えたら動けなくなってしまうような気がした。この気持ちは、彼女に伝えずとも伝わっていると思えた。そんな風に、僕は逃げ道を作った。逃げようとする僕には、皮肉だな、そう心の中毒づき。
日が変わると同時に、僕はそっと家を出た。

それからのことはあまり覚えていない。あてどないことに変わりはないのだから、ふらふらと家から離れていったことだけは覚えている。それでだ。結論から言おう。僕は数時間後、病院に居た。
 誰でもない。彼女がそこに居るからだ。母ではない。彼女が。
 ベッドに横たわる彼女の顔には、目に痛いほど真っ白な布がかけられていた。だから、僕は目が痛いから、痛くて堪えられないから、だから涙が零れた。ベッドの隣には、見慣れぬ男女が立っていた。女性のほうは、ベッドのシーツに顔を埋め、すすり泣いている。男性のほうは、何かから目を背けるように壁に拳を付いていた。僕の隣を、白衣の医者と看護師が頭を下げ、そして通り抜けていった。目線は、僕の背中から外さずに。
 見知らぬ女性―彼女の母が顔を上げた。泣き腫らした目元は赤く、けれどその瞳は真っ直ぐに僕を射抜いていた。
 あなたなんかと、あなたなんかと一緒に居たから、うちの子は………。
 目の前の女性は、その先の言葉を言わなかった。その先の事実を認めたくないかのように。そして、またすぐに口を開いたが、僕に言葉は届かなかった。
 
あの時の生活に戻るのに、そう時間はかからなかった。全てを失ったわけじゃないと、人はそう思うだろう。実際に、僕にはまだ家族が残されている。けれど、失って初めて失ったモノの大きさを知らされた。胸に穴が開くなんて思わない。ただ、腹の辺りが空っぽになったように感じた。僕は、もう生きていることしか出来なくなっていた。それ以外、何も出来ない。
 

数日後。
僕の部屋に、時計の類はないので、携帯がその代わりを務めていた。しかし、いつからか充電が切れていたらしく、今は時間が分からない。だが、今となってはそんなことはどうでもよかった。ただ、なんとなく、今が何時なのかを把握するため、僕は携帯を復活させた。そして、彼女からの着信履歴と、留守電があるのに気づいた。
 聞こえてきたのは、彼女の荒い息遣い。そして、それを整えた後の言葉。
 何があったかは分からないけど、何処にいるの。家に行ったのに居ないから、心配で…今、探してるんだよ―――綴られていく言葉は、一つの真実を導き出していった。彼女は………あの夜、僕を追っていたのだ。そして、事が起きた。

僕が、僕が僕が僕が僕が、誰でもない僕が、彼女を殺した。

 僕は、生きることも出来なくなっていた。


 吹き荒ぶ風は、僕の背を揺らしていく。背にある異形の羽を。純白の翼を。
もう、誰にも迷惑を掛けたくなかった。もう、誰も傷つけたくなかった。もう、誰とも一緒にいたくなかった。
町で一番、見晴らしがいい。ここはそういう所。何処かなんて、僕は知らないし、興味もない。ただ、僕は今から生きることをやめる。もう、生きることもできなくなった僕には、ここはお誂えの場所だ。
目の前には錆び付いて、今にも風で吹き飛ばされそうなフェンス。そこに手をかける。軋み、カシャンと独特の音を立てる。足をかけ上っていく。思いの外、頑丈だったようだ。僕が向こう側に着くまで、折れてしまうということはなかった。万が一、折れてしまったら、意図せずに落ちてしまう。そんなことは許さない。僕自身が、誰よりも。
僕は、贖罪で生きることをやめるんじゃない。僕は、もう生きることができない。だからじゃないけど、結果としては、死ぬことになるんだろうな。
さて、僕はそれほど感傷に浸るような人間でもないし、さっさと終わらせてしまおう。僕をここまで育ててくれた、両親には謝っても謝りきれないし、感謝もしつくしてもしきれないほど、感謝している。だけど、許してください。僕は、生きることをやめます。もう、この翼と生きていくことはできません。たとえ、この翼が無くなろうとも、僕に翼があった事実も、彼女と会えない事実も消えません。ただ一つ、救いなのは、彼女と過ごした時間も消えることはないということだけ。過去は消えない。過ぎたことは消せない。消したいことも背負って生きていかなければいけない。それが人生、人が生きていくことなのだろう。けれど、僕にはもう、背負うスペースが残っていない。僕には、重く大きく邪魔な、この翼があるから。
ふむ、それじゃあ、いくとしようか。


意外だなぁ。走馬灯というものは存外見えないものか。見えるのはやっぱり、灰色のアスファルトだけ。あぁ、僕は今から死ぬのか。不思議だ、翼が生えてこのかた、思ってみないことを、今になって思ってしまった。我ながら未練がましいな。
飛びたいと、思うなんて。
………………
……………
…………
………
……





これが、例の?
あぁ、そうだ。噂の天使になった人間ってやつだろうな。
これが、天使か…。
悲惨だな。
あぁ、これじゃあまるで、
地に堕ちた天使、なんて綺麗なもんじゃないな。
まるで、撃ち落された鳥じゃないか。
確かにな。天使は白い羽ってもんだろ。これはどう見ても、真っ黒だ。
あぁ、真っ黒だ。真っ黒な羽だ。いや、真っ黒な翼か。
どっちでもいいよ、そんなこと。それより、さっさと運んじまおう。人が集まってくる。
おい、それは分かったが、どこに運ぶんだ?
そんなの決まってるだろ。病院だよ、一応人間だからな。
一応、か…。
なんか言ったか?
いや、なにも…。
それじゃ、運ぶぞ。
あぁ。



さて、僕という人間が、いや一応人間と言っておこう。僕という一応人間がどういう風な人生を送ってきたか分かってもらえただろうか。翼が生えていたのは、僕の人生の中ではほんの少しだ。トータルで考えてみたら、てんで少ない。それ以外は、一応ではなく、間違いなく人間だった。まぁ、途中で人間でもなんでもないものにはなっていたが。最終的には、一応人間にまで戻れたわけだけど、そんなことはどうでもいい。僕は、こういう風に逝きたかったのではなく、こういう風に生きたかったのだ。人生のほとんどを人間として生きたかった。それが人生だからだ。あのまま生きていても、それは人生とは言えない、そう僕は思ってね。
僕は、翼を背負って生きていくことを苦としたんじゃない。人間として生きていけないことを苦としたんだ。なんだかんだ言ってはいるが、要は負けたんだ、人生に。人とは違っても生きていくとはできたかもしれない。けど、僕にはできなかった。やめるしかなかった。僕は、違うことを恐れた。他と同じようにできないから、だから唯一できる、人生をやめる、という選択肢を選んだ。
これは、そういうお話。
人生をやめる、そういう選択肢のお話。
翼が生えようが生えまいが、誰にでもできる選択肢のお話。
結局、僕の人生は平凡な終わりを遂げた。
非凡な人生を、平凡に終わらせた。
僕は、平凡な人間だった。





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